大阪地方裁判所 平成5年(ワ)1041号 判決 1993年10月08日
原告
堀江一彌
ほか一名
被告
板並英二
主文
一 被告は、各原告に対し、それぞれ金六九万六二六四円及びこれらに対する平成三年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求は、いずれも棄却する。
三 訴訟費用は、四分し、その三を原告ら、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、各原告に対し、それぞれ金三一〇万一〇七七円及びこれに対する平成三年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、自動車と衝突して死亡した自転車運転者の遺族が、自動車の運転者かつ所有者に対して、自賠法三条により、損害賠償を請求した事案である。
一 当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実
1 平成三年九月二四日午後二時二五分ころ、大阪府吹田市円山町五〇番先路上において、自転車(原告車両)を運転走行中の堀江美幸(亡美幸)に、後方から進行してきた、被告運転の普通乗用自動車(被告車両)が衝突した(本件事故)(当事者に争いがない。)。
2 亡美幸は、本件事故によつて、脳挫傷、急性硬膜下血腫、頭蓋骨骨折、顔面擦過傷及び左後頭部裂創の傷害を負い、同月二七日、死亡した(甲二)。
3 被告は、被告車両を所有し、運行供用していたから、本件事故による損害について、自賠法三条に基づいて賠償する責任を負う(当事者に争いがない。)。
4 原告らは、自賠責保険から、二八六五万〇六三五円受領した(当事者に争いがない。)。
二 争点
1 損害
2 過失相殺
(一) 被告主張
本件事故は、亡美幸の右折(横断)方法不適当、後方安全不確認など重大な過失により発生したものであるから、過失相殺は七割を下らない。
(二) 原告らの主張
亡美幸の過失は、あつたとしても三割を上回るものではない。
第三争点に対する判断
一 損害
1 亡美幸の損害と相続
(一) 逸失利益 二三〇三万五九二四円(原告主張同額)甲一、原告本人尋問の結果によると、亡美幸は、死亡当時一七歳の健康な女子高校生であつたので、平成四年賃金センサス高卒女子労働者一八ないし一九歳の平均賃金年収額を勘案すると、少なくとも、一八歳以降六七歳までは、原告主張の年一九三万九九〇〇円の年収を得たと推認でき、生活費控除率を五〇パーセントとし、新ホフマン係数を用いて中間利息を控除すると、その計算式は左のとおりとなる。
一九三万九九〇〇円×(一-〇・五)×(二四・七〇一九-〇・九五二三)
(二) 慰藉料 一二〇〇万円(原告主張同額)
一切の事情を考慮すると、亡美幸を慰藉するには、右金額が相当である。
(三) 治療費 八七万一四三五円(原告主張同額)
甲二、三、原告本人尋問の結果によると、亡美幸は、本件事故当日である平成三年九月二四日から死亡した同月二七日までの四日間、千里救命救急センターで、前記各傷害について治療を受け、その治療費として、右金額を要したと認めることができる。
(四) 付添看護費 否定(原告主張一万八〇〇〇円)
原告本人尋問の結果によると、原告らは、入院全期間付き添つたことが認められるものの、その期間付添看護を要したとの医師の診断書等の立証資料はなく、かえつて、甲二及び亡美幸の病状からすると、その付添は看護のためというより、親族の心情によるものである可能性が高いといえ、付添看護費を認めるには足りない。
(五) 入院雑費 五二〇〇円(原告主張七二〇〇円)
亡美幸は、前記のとおり四日間入院し、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円と認めるのが相当であるから、右のとおりとなる。
(六) 相続
甲一、原告本人尋問の結果によると、原告らは、亡美幸の両親であつて、他に相続人はいないことが認められるから、亡美幸の損害賠償請求権について二分の一である一七九五万六二七九円づつ相続した。
2 原告ら固有の損害
(一) 慰藉料 各原告四五〇万円(原告ら主張各原告六〇〇万円)
甲一、原告本人尋問の結果によつて認められる、亡美幸と原告らの関係、本件事故後の被告側の対応等に照らすと、原告らを慰藉するには右金額が相当である。
(二) 葬儀関係費 各原告五〇万円(原告ら主張同額)
原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告らは、亡美幸の葬儀等を執り行いその関係費として相応の出費をしたと認められるところ、本件事故と因果関係のある損害は右のとおりである。
3 各原告の損害
前記各損害を合計すると、各原告の損害は、それぞれ二二九五万六二七九円となる。
二 過失相殺
1 乙一、被告本人尋問の結果によると、以下の事実を認めることができる。
本件事故現場のほぼ六メートル西の地点は、ほぼ南北に直線路が走り、ほぼ東側に交差道路の伸びるT字型交差点であつて、信号機によつて規制されておらず、左右、前方の見通しはよかつた(本件交差点)。本件現場付近は、市街地であり、本件事故現場付近の道路は、歩車道の区別はなかつた。道路は舗装されており。路面は平坦であつて、事故当時乾燥しており、最高速度は、時速三〇キロメートルに規制されていた。その概要は、別紙図面記載のとおりである。
被告は、被告車両を運転し、時速四〇キロメートルないしそれを上回る速度で、本件交差点の直線道路部分をほぼ西側から進行してきていたが、一〇〇メートル先当たりに、同一方向に進行する原告車両を認めた。その後、<1>地点付近に到達した時、東側交差車線から車両が進入してこないことを確かめた後、<ア>付近を進行する原告車両を追い越すべく、右側に進路変更して走行して<2>地点付近に達したところ、原告車両が、特に横断する素振りは見せず、<イ>付近に走行し、直線道路を横断しようとしたため、それを避けるべく、ブレーキを踏み、左にハンドルを切つたが及ばず、<2>地点から一三・九五メートル進行した<3>地点付近で、<イ>地点から二・三五メートル進行した<ウ>地点付近の原告車両の右側面後部に、被告車両の前部右を衝突させ、<2>地点から二一・六五メートル進行した<4>地点付近で停車した。なお、その際のスリツプ痕は、別紙図面のとおりであつて、左前輪八・二メートル、右前輪二・九メートルであつた。
2 なお、被告本人尋問の結果には、時速が四〇キロメートルを超えることはない旨の部分があるが、同時にメーターを見ていないことも自認しているし、前記の原告車両を認知してから停止までの距離、スリツプ痕の長さ、被告が危険を感じた時点から衝突時点までの被告車両及び原告車両の進行距離からすると、それ以上のスピードが出ていた可能性も否定することはできないというべきである。
3 前記の事実からすると、亡美幸には、道路横断時の安全不確認、合図の不履行の過失があると認められるので、相応の過失相殺をすべきである。そこで過失の割合を検討すると、原告側の過失としては、少なくとも時速一〇キロメートルの速度違反があり、他にも、原告車両の動静注視不十分も否定しきれないこと、本件事故の現場が交差点付近であること、亡美幸の乗車していたのは自転車であつて、高速走行等の特に危険な走行をしていたとは認められないこと等の前記認定の本件事故態様、道路状況等に照らすと、三五パーセントの過失相殺をするのが相当である。そうすると、各原告の損害は、それぞれ、一四九二万一五八一円となる。
四 填補
弁論の全趣旨によると、既払いである二八六五万〇六三五円については、二分の一である一四三二万五三一七円ずつ各原告の損害に填補されたと認めることができる。
したがつて、各原告の損害は、五九万六二六四円となる。
五 弁護士費用 原告ら各一〇万円
各原告の認容額、本件訴訟の経緯等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、右のとおりとなる。
六 結論
したがつて、原告らは、それぞれ、被告に対し、各自六九万六二六四円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 水野有子)
別紙 <省略>